2024/05/14 コラム
「どこからでも切れます」ラー油の袋開けに苦戦、口で開けたら目に飛び散る惨事に…治療費払ってもらえる?
こんにちは、弁護士田村ゆかりです。
なかなか切れないラー油の袋を強引に開けようとしたら飛び散って目に入った──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
ラー油の袋には「どこからでも切れます」と書いてありましたが、相談者があらゆる方向から手で開けようとしても全然切れなかったため、やむなく口で開けようとしました。すると、勢い余ってか、ラー油が飛び散ってしまい目に入ってしまったようです。
「もし目に異常が出たら、ラー油の製造業者に治療費を請求する」と怒りを隠し切れない様子の相談者ですが、実際に可能なのでしょうか。田村ゆかり弁護士に聞きました。
●「欠陥」があったかどうか
──商品で事故が発生した場合、一般的に製造業者にはどのような責任がありますか。
製造物責任法3条に基づく損害賠償請求が考えられます。
「製造業者等は、その製造、加工…(中略)…した製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
同法は2条2項で「この法律において『欠陥』とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」と定めています。
──具体的には何が「欠陥」に当たるのでしょうか。
法文上、欠陥の種類は定められていませんが、一般に(1)設計上の欠陥、(2)製造上の欠陥、(3)指示・警告上の欠陥という3類型があると考えられています。
●「どこからでも切れます」という加工が実際にされていたか
──今回のケースではどうでしょうか。 仮に「どこからでも切れます」の謳い文句通りの加工が実際にされていなかった場合、(1)設計上または(2)製造上の欠陥があるとして、治療費等の請求ができるかどうかが問題になるでしょう。
この点、相談者が口で開けようとせずに、はさみで切れば良かったのではないか、とも思えます。
しかし、カプセルトイのカプセルで遊んでいた2歳の子がカプセルを喉につまらせて低酸素症による後遺障害が残った事案でカプセルの設計上の欠陥を認めた裁判例(鹿児島地裁平成20年5月20日判決)や、携帯電話をズボンのポケットに入れたままコタツで寝た結果火傷を負った事案で設計または製造上の欠陥を認めた裁判例(仙台高裁平成22年4月22日判決)などを見ると、消費者が必ずしも合理的な行動をするわけではないことを前提としているように思えます。
調味料の小袋はお弁当や総菜についてくることが多く、それを開けようとする場所はたとえば新幹線内だったり、ホテルの室内だったり、屋外の現場だったり、開かないからと言ってはさみをすぐに用意できないことも十分想定され、歯でかみ切ろうとすることも「通常予見される使用形態」に含まれると言えそうです。
この場合、治療費等の請求ができると考えられます。
──謳い文句通りの加工が実際にされていた場合はどうでしょうか。
通常であれば手で容易に切ることができる加工がされていたのであれば、設計・製造上の欠陥を主張立証することは難しいかもしれません。
指示・警告上の欠陥があったかどうかについては、参考となる裁判例として、祖母が1歳の孫にこんにゃくゼリーを与えたところ喉に詰まらせて窒息死した事案で、子どもや高齢者が食べると喉につまらせる危険性があることが明確に示されていること等を理由として、安全性を欠くものではないとしています(大阪高裁平成24年5月25日判決)。
調味料の小袋に、「手で切れない場合ははさみを用いて下さい」「調味料がこぼれ出るおそれがあります」等の注意文があるか否かにより、損害賠償請求が認められるか否かが変わってくると言えそうです。